はじめに:「ネオン寺院」構想の誕生
夕暮れ時、下関の古刹を訪れた際のこと。西日に照らされた伝統的な寺院の姿と、帰り道に見た海沿いの街の灯りが脳裏で重なり合い、一つの鮮明なイメージが浮かびました。もし伝統的な寺院建築が、サイバーパンク的なネオンライトに照らされたら?古代と未来、静寂と喧騒、東洋の精神性と西洋の技術革新が交差する空間は、どのような姿になるのだろう?
そんな思いつきから生まれたのが「ネオン寺院」というコンセプトです。日本の伝統的な寺院建築様式を保ちながらも、サイバーパンク世界の象徴であるネオンライトに彩られた未来的な宗教空間。静寂な祈りの場と、活気に満ちた未来都市の要素を融合させた、矛盾と調和が共存する幻想的な世界を創造したいと考えました。
このブログでは、「ネオン寺院」というアイデアを思いついてから、AIアートツールを使って実際に視覚化するまでのプロセスを詳細に綴ります。特に、プロンプト(AIへの指示文)の試行錯誤の過程に焦点を当て、思考の流れをそのままお伝えすることで、読者の皆さんにもAIアート創作のヒントになれば幸いです。
プロンプト開発の思考プロセス
寺院建築の特徴を理解する
まず、伝統的な寺院建築の特徴を把握することから始めました。日本の寺院建築は、中国から伝来した様式が日本化した「和様」、鎌倉時代に中国から伝えられた「大仏様(天竺様)」と「禅宗様(唐様)」、そしてこれらが混合した「折衷様」の4種類が基本です。
寺院建築の特徴的な要素として、以下の点に注目しました:
- 重厚な瓦屋根と深い軒の出
- 組物(くみもの)による複雑な構造美
- 山門、金堂、五重塔などの伝統的な構成要素
- 木材を中心とした自然素材の使用
- 対称性と幾何学的なバランス
下関市内にある古い寺院を幾つか訪れて写真を撮り、建築様式の細部を観察しました。特に印象に残ったのは、屋根の曲線美と組物の複雑さ、そして空間そのものが持つ厳かな雰囲気でした。
サイバーパンクとネオン要素の研究
次に、対極にあるサイバーパンクの世界観について理解を深めました。サイバーパンクは、「高度な技術と荒廃した社会」という矛盾したテーマを持つSFジャンルで、視覚的には以下の要素が特徴的です:
- 鮮やかなネオンカラー(特に青、ピンク、紫、水色)
- 暗い背景とのコントラスト
- 未来的な技術要素(ホログラム、デジタルディスプレイなど)
- 都市の過密感と垂直性
- 夜間や雨天のシーン
ブレードランナーやサイバーパンク2077といった作品から、ネオンが作り出す独特の雰囲気を分析しました。特に、暗闇の中でネオンが生み出す色彩のコントラストと、光が反射する様子に注目しました。
融合の課題と方向性
伝統的な寺院建築とサイバーパンクのネオン要素は、一見すると相反する概念です。この融合において、以下の点が課題となりました:
- 建築の完全性の維持:ネオン要素を追加しても、寺院建築の基本構造や美しさを損なわないこと
- 違和感のない融合:ただネオンを貼り付けるのではなく、有機的に融合させること
- 象徴性の保持:寺院が持つ神聖さや静謐さを、現代的な解釈で表現すること
下関市の風景、特に夜の海峡に映る街の灯りからインスピレーションを得て、「光の反射」や「水面との関係」も取り入れることにしました。静かな水面に映る寺院とネオンの融合こそ、私が求めるイメージの核心部分です。
プロンプト試行錯誤の過程
それでは、実際のプロンプト開発の試行錯誤をご紹介します。各バージョンでのプロンプト内容と、その結果から得た気づきを共有します。
バージョン1:基本コンセプトの定義
- 日本語:「ネオン照明に照らされた伝統的な寺院、サイバーパンク、未来的な僧侶」
- 英語:”neon temple with traditional architecture illuminated by cyberpunk lighting, future monks”
結果と考察:
最初のプロンプトでは、基本的な要素は表現できたものの、生成された画像は寺院の建築様式が曖昧で、どこかの異教の神殿のような雰囲気になってしまいました。また、ネオンの色彩も特定されておらず、全体的に青一色で、サイバーパンク特有の多彩な色使いが表現できていませんでした。伝統的な日本の寺院であることをより明確にする必要があります。
バージョン2:文化的特性と色彩の指定
- 日本語:「日本の伝統的な寺院建築、赤と青のネオン照明、サイバーパンクの夜景、デジタル装飾の屋根と柱」
- 英語:”Japanese traditional temple architecture, red and blue neon lighting, cyberpunk night scene, digital decorated roof and pillars”
結果と考察:
文化的な起源を明確に「日本」と指定し、色彩も「赤と青」と具体化したことで、画像の方向性が定まりました。しかし、建築の細部がまだ不明瞭で、特に屋根や柱の伝統的な様式が十分に表現されていませんでした。また、寺院の周囲環境が都市的すぎて、寺院本体が埋もれている印象がありました。建築要素をより具体的に指定し、寺院に焦点を当てることが必要です。
バージョン3:建築詳細の追加
- 日本語:「五重塔のある日本の伝統的な寺院、曲線的な瓦屋根、精緻な木組み、ピンクと青のネオン照明、デジタル祈祷文が浮かぶ、夜間シーン」
- 英語:”Japanese traditional temple with five-storied pagoda, curved tile roof, detailed wooden structure, pink and blue neon lighting, floating digital prayers, night scene”
結果と考察:
建築の具体的な要素として「五重塔」や「曲線的な瓦屋根」、「精緻な木組み」を追加したことで、より日本の寺院らしさが表現できました。また「デジタル祈祷文が浮かぶ」という要素を加えることで、伝統と技術の融合という面白い対比が生まれました。
しかし、生成された画像では五重塔と本堂の配置バランスが不自然で、全体的な構図に課題がありました。また、ネオンの表現がまだ平面的で、光の質感や反射が十分に表現されていません。環境設定とライティングをより詳細に指定する必要があります。
バージョン4:環境とライティングの強化
- 日本語:「霧に包まれた日本の伝統的な寺院、大きな門と本堂、曲線的な瓦屋根、ピンクと青のネオン照明が建築の輪郭を照らす、水面に映る反射、夜間シーン、サイバーパンク、高品質レンダリング」
- 英語:”Japanese traditional temple shrouded in mist, large gate and main hall, curved tile roof, pink and blue neon lights outlining the architecture, reflections in water surface, night scene, cyberpunk, high quality rendering”
結果と考察:
「霧に包まれた」という環境設定と「水面に映る反射」という要素を追加したことで、ネオンの光が拡散し幻想的な雰囲気が強化されました。また「建築の輪郭を照らす」という指定により、ネオンの配置が自然になりました。下関の海辺で見た霧と水面の光の反射を意識したこの変更は、画像の雰囲気を大きく改善しました。
しかし、寺院の中で行われている活動や人物が不足しており、静的な風景になっていました。寺院空間が持つ宗教的な活動やサイバーパンク要素との融合をより明確に表現するため、人物や活動の要素を追加する必要があります。
バージョン5:人物と活動の導入
- 日本語:「霧に包まれた日本の伝統的な寺院、曲線的な瓦屋根と精緻な木組み、ピンクと青のネオン照明が建築を彩る、デジタル祈祷文が空中に浮かぶ、未来的な装いの僧侶たちが瞑想している、水面に映る反射、夜間シーン、ドラマチックな照明、高品質レンダリング」
- 英語:”Japanese traditional temple shrouded in mist, curved tile roof and detailed wooden structure, pink and blue neon lights decorating the architecture, digital prayers floating in the air, futuristic monks in meditation, reflections in water surface, night scene, dramatic lighting, high quality rendering”
結果と考察:
「未来的な装いの僧侶たちが瞑想している」という要素を追加したことで、空間に人間的な要素と活動が加わり、画像に生命力が生まれました。また「デジタル祈祷文が空中に浮かぶ」という要素が、伝統的な宗教活動の未来的な解釈を表現しています。
生成された画像は、全体の雰囲気はかなり改善されましたが、僧侶の姿がやや小さく、その装いの未来的な部分が分かりにくくなっていました。また、建築部分とネオンの配置のバランスがまだ完璧ではなく、さらなる調整が必要です。
最終プロンプトの完成
これまでの試行錯誤を経て、最終的に辿り着いたプロンプトは次のようなものです:
- 日本語:「霧に包まれた日本の伝統的な寺院、曲線的な瓦屋根と精緻な木組みの詳細な構造、ピンクと青のネオン照明が建築の要素を強調、デジタル祈祷文が空中に浮かび光を放つ、テクノロジーの要素を取り入れた伝統的な衣装を着た未来的な僧侶たち、水面に映る幻想的な反射、夜間シーン、霧がかった雰囲気、ドラマチックなライティング、高解像度、精密な建築の特徴を持つ高品質イラスト」
- 英語:”A neon temple with traditional Japanese architecture illuminated by cyberpunk lighting, detailed structure showing both ancient wooden temple elements and modern neon lights in blue and pink colors, digital prayers floating in the air, future monks in traditional robes with subtle technological elements, nighttime scene with fog, high quality, dramatic lighting, detailed architectural features”
この最終プロンプトには、以下の重要要素が含まれています:
- 建築の具体性:「曲線的な瓦屋根と精緻な木組みの詳細な構造」という表現で、日本の伝統的な寺院建築の特徴を明確に指定
- ネオンの配置と色彩:「ピンクと青のネオン照明が建築の要素を強調」と指定することで、建築とネオンの調和を表現
- 未来的宗教活動:「デジタル祈祷文」や「テクノロジーの要素を取り入れた伝統的な衣装を着た未来的な僧侶たち」という表現で、宗教活動の未来的解釈を提示
- 環境設定:「水面に映る幻想的な反射」「霧がかった雰囲気」といった要素で、下関の海辺からインスピレーションを得た幻想的な環境を設定
- 技術的品質指定:「ドラマチックなライティング」「高解像度」「精密な建築の特徴」といった表現で、画像の技術的品質を高める指示を含める
こうした要素を包括的に組み合わせることで、伝統と未来が融合した「ネオン寺院」のビジョンをより明確にAIに伝えることができました。最終的に生成された画像は、最初のバージョンと比較して格段に洗練され、私が思い描いていたイメージに非常に近いものとなりました。
技術的考察と応用
このプロンプト開発の過程から、いくつかの重要な教訓が得られました。
プロンプトエンジニアリングの重要ポイント
- 具体性と抽象性のバランス:
過度に詳細すぎると AIの創造性が制限されますが、曖昧すぎると意図した結果が得られません。「曲線的な瓦屋根」のように、特徴的な要素を具体的に指定しつつ、細部はAIの解釈に委ねるバランスが重要です。 - 文化的コンテキストの明確化:
「寺院」だけでは様々な文化の宗教建築が含まれるため、「日本の伝統的な」という限定が効果的でした。文化的背景を明確にすることで、AIの解釈の方向性が定まります。 - 対比要素のバランス:
「伝統と未来」という対立する要素を融合させる場合、どちらかに偏りすぎないよう注意が必要です。ネオンの色や配置を指定しつつも、建築構造の詳細も同等に重視することで、調和のとれた融合が実現します。 - 環境設定の重要性:
「霧」や「水面の反射」といった環境要素が、画像の全体的な雰囲気を大きく左右することが分かりました。これらは下関の風景からインスピレーションを得た要素であり、個人的な経験を反映させることの価値を再確認しました。
他プロジェクトへの応用可能性
この「ネオン寺院」の開発プロセスで得た知見は、他のAIアートプロジェクトにも応用可能です。特に:
- 異なる時代や文化の融合:他の伝統建築(城、神社、古民家など)と未来要素の組み合わせ
- 自然と技術の対比:森林や山岳風景にサイバーパンク要素を導入するプロジェクト
- 地域性の反映:下関の特徴的な風景(関門海峡、巌流島など)と未来技術の融合
既に、次回のプロジェクトとして「サイバー神社」や「デジタル茶室」といったコンセプトを検討中です。AIアートの魅力は、こうした通常では実現困難な概念の視覚化ができる点にあり、今後もさまざまな文化的要素と未来像の融合を探求していく予定です。
まとめ
「ネオン寺院」プロジェクトは、伝統的な日本の寺院建築とサイバーパンクのネオン要素という、一見相反する概念を融合させるという挑戦でした。下関の霧に包まれた海辺の風景と都市の灯りからインスピレーションを得て、過去と未来が交差する幻想的な世界を創造することができました。
プロンプト開発の過程では、単なる言葉の羅列ではなく、文化的背景の理解、視覚要素の分析、そして私自身の地域における経験が重要な役割を果たしました。AIアートの創作において、技術的なツールの使い方だけでなく、こうした多角的な視点と知識の統合が、より豊かで個性的な作品へとつながることを実感しています。
読者の皆さんも、お住まいの地域の風景や文化的要素から着想を得て、AIアート創作に取り組んでみてはいかがでしょうか。
参考文献・引用元
- 「日本の寺院建築様式とその特徴」建築工房 和, 2020年3月4日
https://k-nagomi.co.jp/2020/03/04/寺院建築技術の特徴/ - 「サイバーパンク風のイラストを描いてみよう!」MediBang Paint, 2024年4月5日
https://medibangpaint.com/use/2024/04/cyber_punk_illust/ - 「デザイン界におけるサイバーパンクの台頭」Pixcap, 2024年3月26日
https://pixcap.com/jp/blog/cyberpunk-aesthetic-in-design - 「思い通りにAIイラストを作成するプロンプト一覧!コツや作成例も紹介」Jitera, 2024年
https://jitera.com/ja/insights/35059
アイキャッチ画像はAIアートツールを使用して生成しました。
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